帰り道、彼は黙ったままだった。
風俗店で働いていたというのを目で感じたからかどうなのか。
車を運転している姿は酷くうつろに見えた。しばらく走って、海が見えてきた。水面がキラキラ光って、波が白く泡立っているのを眺めながら。
「私ね、小学生まではこの辺りに住んでいたの。小学生、あんまり記憶にないんだけど。そのあと両親が帰ってこなくてね、あれはまいったよね。食べるものもないし、お金もないし。たまに帰ってきてお金だけおいていって。高校生のときにはもう帰ってこなかったから、売春してたのよ。生きることに必死で。その延長で今もこの仕事をしてた」
生きることに必死。そうだろうか、ただ漠然と生きていた気がする。
でも死を実感して、肩の荷が降りて安心したという気持ちだ。
両親への反抗で必死に生きてきたんだと思う。
「小学校の頃、記憶はないけど楽しかったんだと思う。一番人生で甘やかな時間だったと思う」
記憶が幼少期の頃、とびとびだったが居場所があったのは間違いない。
食べ物も屋根もあった。友達もいたと思う。

