時価数億円の血脈

あまりにも簡単に死んだあと、自分を売りさばこうとすることに感情がなかったように見えてそれが今までの人生での答えなのかと思ったらあの後泣いてしまったと、改めて彼は涙を流したのだった。

生きていくには甘い考えだ。私のような生き方をしている人間にとっては。
性を切り売りするなら感情を捨てないと、その業界で生きていけないのだ。

だけれど。
あの時代、私を大事に思ってくれていた人が、今も心配してくれている。

「本当に、探すから。治療法を、だからもう少し耐えてください」

崩れるようにして、彼は項垂れた。足にぽたぽたと涙が落ちていて。
私も一緒に泣いた。



現実は残酷で、一向に治療はみつからなかった。
どんどん悪くなっていく身体、ねたきりになってしまい硬直している足。
彼はいつだって奔走していた。色んな専門医に見に来てもらっても有力な情報が得られない。彼もどんどんやつれていった。

「私死んだら、桜の下に砕いて埋めてほしい。次の年めちゃくちゃ桜綺麗に咲いてそうじゃない?」

「馬鹿言ってないで」

彼はこっちを向かないで諫めた。
背中を向けたままの彼にそのまま続ける。

「市風君、わたし好きだ。君のこと、本当に」

私、貴方に売られるならそれでいい。
今世、とても満足しているから。

彼が近寄ってきた。泣いている、悟ったのだろう。
もうもたないことを。

「最後にキスしてほしい」

降りてきた唇は涙に濡れてしょっぱかった。柔らかく、唇を合わせて舌を絡める。動かない身体を彼が抱きしめる。目をつむる、もう目は開かなくなっていて、いつの間にか呼吸が止まった。