「もしもし!」




「もしもし。」




「今なんしよーと?」




「今ねー、中高一緒の仲良い友だちとお店

来てる。」




優依が答えた。




「そーなん。いーやん!」






(え、誰と電話してるん?)





電話の向こう側で、女の子が尋ねているのが聞こえた。




きっと優依の友だちだ。




(あれよ、あれ。)




女の子に対して、優依がなんか答えた。



ガチャガチャっとした雑音が、電話から聞こえてくる。



遠くで誰かが歌っている声も聞こえた。




『BARかな』




そう思った。




優依は電話の向こう側で、まだ女の子と話をしている。




(塾の先生やで。)




(えーー!?ユウがずっと大好きな人やん!!!)




そんな会話と同時に、キャーキャーと盛り上がる声が聞こえてくる。






『友だちには、ユウって呼ばれてんねや!』



『てか優依、私のこと友だちに話してんだ。』





ちょっとだけ、嬉しかった。





(良いやん、良かったやん!)




明らかにテンションが高い女の子の声がしたあと、優依から「友だち紹介していい?」と聞かれた。




「まじ?いいよ。」




私が返事を言い終える前に、さっきよりも近いところで女の子の笑い声が聞こえた。





「あ、どーも。みかです。」





ふつうに挨拶した。




電話の向こう側はざわざわしており、よく声が聞き取れない。




私は、もう一度「どーもー。」と、声を出した。





相手の声は聞こえない。





『いやいや、こっちが名乗ってんだから、そっちも答えんかい(*`Д´)ノ!』





優依には悪いが、相手と会話ができないこの状況に対して、かなりイライラしていた。





相手は、明らかに会話できるテンションじゃなかった。





「みーちゃんやで!」





優依が補足するが、キャーキャー聞こえるだけで、会話になっていない。





その時、誰かが優依に対して「ユウ、良かったやん!」と言った。






「みーちゃん、婚約者やで!」






優依が言い間違える。


私のことを既婚者だと、言いたかったらしい。

  


その言葉は、さらに女の子たちのテンションを爆上げさせた。






おそらく、

私と優依が付き合っていて、しかも婚約までしていた仲だと勘違いしているようだった。






お互いに酔ってたし、それはしゃーない。






  






「既婚者な!(笑)」






すかさず、私が優依の言い間違いを正した。




 








  
  


「そーやった!既婚者!」






 



  







*****





「みーちゃん、何飲んでるん?外出てきたん?」





優依は場所を移動したのか、周りが少しだけ静かになった。





「ピーチウーロンだよー!外出てきた!」




「かわいいな(笑)」




「そう?優依は何飲んでるん?」




「ハイボール!」




「あーね!」




「お酒強い?」




「弱いと思うよ!」


「優依は?」





「強いよ。全然酔わん(笑)」




「そーなん!すご!」




「ね、みーちゃん兵庫来たらさ、今来てるこの店一緒に行きたい。」




「いーよ!行こ!」










ふと、優依とお酒の会話をしていることが不思議に思えてきた。






なんせ、初めて逢ったとき優依はまだ15歳だったんや。





なんか、急に、時の速さを感じた。











「あれ、優依、今年25になったんやっけ?」



「26!」



「誕生日、早生まれやなかった?」



「あー、それ言うなら25やわ!」

「でも次の1月ですぐ26なるよ!」



「大きなったなー(笑)」



「大きくなりました(笑)」



「みーちゃん何歳になったん?(笑)」



「言わんし(笑)」

「今までも教えたことないやん?(笑)」



「あれ?でも1回聞いたことないっけ?」



「ないない(笑)」

「絶対言ってないよ(笑)」






ほんとに教えた覚えがない。
むしろ、教えていないという記憶がある。



私は、優依に限らず、自分の年齢を知られることが嫌いだった。










「あ、でも1回何こ上とか聞いたことあるよ?」



「そーなん!?」

「でもそれ、ほんまのこと教えてないかもしれんやん?(笑)」





私ならあり得る。





「やば(笑)」

「待って、1回言っていい?29やない?」





「・・・、ありがとう(笑)」






思わず笑ってしまった(-∀-)





「え、違うなそれ(笑)」



「いいよ、29で(笑)」



「それ絶対に30越えとるやん(笑)」



「さあね~(笑)」











幸せな会話が続く。


こんな何気ない会話の中に、幸せがあるんだと感じた。












「ねー、優依。私のこと友だちになんて話してるん?」






私が切り出した。





「え(笑) 塾の先生(笑)」




「それやめろや!恥ずかしい(笑)」




ふつうに恥ずかしかった。




「なんで(笑)

めっちゃbe動詞教えてくれたやん(笑)」







私が恥ずかしがってるのをいいことに、優依が強気になって続ける。












「恥ずいわ(笑)」




「だってさ、一番仲良かったもんね!他の先生、全然覚えてないもん!」




「そう?」



「うん!だって、みーちゃんが16時に帰るって言ってたからさ、俺、10時から16時まで勉強しに来てたもん!」





「めっちゃ大好きやん(笑)」






本気で『大好きかよ』って思った。





「そんなん、よう覚えてんな(笑)」





「覚えてるよ(笑)」





「でももう塾の先生って言わんといて!恥ずすぎるわ(笑)」






「えーーー、わかったーーーー!」









「友だちでいーやん?(笑)」












何気なく言った私の一言で、笑っていた空気が一気に静かになった。










「え、友だち・・・?」











珍しくか細い声で、優依が聞き返した。












『やば、変なこと言ってしまった!』


と思った。




でも、言ってしまった以上、もうあと戻りはできない。













「それか、、、マブダチ?(笑)」













明るく言い返す。












「・・・・・」













優依には響かなかった。







それどころか、

余計にシンとした雰囲気になってしまった。