カシャン...!



急に何か落ちる音がした。




その日は、小雨が降っていた。



バタバタと乱暴な様子で歩いていた優依は、歩きながら自分のスマホを路肩に落としていた。




優依は、スマホを拾うことなくそのまま雨の中を歩き続けた。





すぐに、彼女が優依のあとを追う。







あとからになって、あれは歩きながら落ちたのではなく、優依がわざと落としたのだと思った。








「もうこんなんいらんねん!!かまうな!!」








突然、優依の大声が真っ暗な路地に響いた。






「・・・・・!!」






彼女は何も言えず黙っている。





こんなに声を荒げた優依は、今までに一度も見たことがない。




彼女は、優依に背中を向けて大声で泣き出してしまった。







見るに耐えれなかったため、気がついたときには優依に近寄ってしまっていた。




ほんとは、もう少し我慢して見守っとけば良かったと思う。




でも、もう遅い。




思わず、優依に声をかけてしまった。








「優依!なにしてんの!早く拾いーよ!」







その場に近づき優依の方を見ると、雨で髪や顔が濡れて、なんだか優依が寂しそうな表情をしているように見えた。







「いいよ。いつものことだし。こんなんよくあることだよ!!(^^;)」






とっても驚いたのだが、私の目の前にいる優依は、いつもと変わらない笑顔を私に見せていた。










『待て待て待て、今人格変わるくらいキレてなかった?それなのに、なんやその笑顔は(;-ω-)ノ』






思わず心の中でそうつっこんだ。







『もしかして、私の顔を見て少しは落ち着いたのかな?』






バカらしいと思うが、その時は本気でそう思った。





そして、優依に彼女と仲直りするように説得した。






「男なんて、とりあえず謝っとけばいいんよ。謝れば、とりあえずなんとかなる。理由なんて関係ないんよ。とりあえず、謝りい!」








このとき、

優依に対して初めて、「男」という言葉をつかった。





喋りながらも、内心とってもこわかった。


  


『、、、言っちゃった。』

『男って言って良かったんかな?』、

『優依、男なんよな?』

『嫌な気せんかったかな?』







内心とっても焦っていた。









   

そんな私をよそに、優依は、「あーね。」、「そーよな。」と、私の話を素直に聞き入れていた。














  

『な、何事もない!』

『良かった!』

『優依、お前男なんやな!』






と、このとき初めて確信した。
  


 



そのあとも

特に優依から聞いたわけではないけど。















私と話し終えると、



優依は、彼女の元へ駆け寄った。



彼女は、優依に背中を向けて歩き出していた。





なにを言っているのかは聞こえなかったけど、優依が彼女に何か話しかけているのが見えた。



しかし、興奮していた彼女は明らかに感情的になって、何か大声で叫んでいた。



彼女が怒っているのか、泣いているのか、ハタから見ていた私(たち)も正直どういう状況かわからなかった。














次の瞬間、







優依が両手で彼女の肩を押して、突き飛ばす姿が見えた。








『おい、おい、おい、

 まじなにしとんねん(>д<)』





と思ったときには、



私は、またしても優依の方へ駆け寄ってしまっていた。







ほんとは、彼女に「大丈夫?」とか、声をかけるべきだった。手、差し伸ばしたりとかして。





だけど、そんな余裕など私にはなかった。

彼女のほうを見ることなく、無意識にズカズカと優依のほうに近づいていった。







やったらいけないこと、それは暴力。




そのことをどうしても優依に伝えたかった。










「おい優依っ!お前男だろっ!男だったら女の子に手え出すなよっ!手え出すのはダメって、わかるよな?」








思わず私も強い口調になってしまった。







優依に対して、改めて「男」という言葉をつかった。






「だってさ、みーちゃん。
 あいつがさーー。。。」





優依が、何か彼女の悪口を言っていた。




だけど、そんなことは正直耳に入らなかった。





私は、私のことを「みーちゃん」と呼ぶいつもの「優依」が目の前にいることに、またしてもとっても驚いた。
















『私の前では、ぜんぜん男の姿見せんやん、、、』





『ほんま、かわいいやつやな、、、』










心の底らへんで、なぜか
一瞬「キュン」としたのがわかった。






このとき、優依に対して今までと違う感情が芽生えたことに、あとからになって気づいた。