その夜、店主の言われた通り、着物を着て散歩してみた。
 
 防寒具は何も身につけていないのに、不思議と寒くない。

 …本当に雪女になったような気になってきた。

「美雪?」
 橋の上で、前方からクラスメイトの麻衣子が声をかけてきた。
 
 でも無視した。
 こいつの言うことなんてだいたい想像できる。
 登校拒否児に優しくして、何とかして登校させる気だ。
 
 きっと、そういうやつの心のどこかには、自分より立場が下と思える社会不適合者と自分を比べて、安い優越感に浸りたい願望があるに違いない。
 それでなければ、他人を改善してやろうなんて思わないはずだ。
 
「ねぇ美雪でしょ?みんな心配してるよ。学校に来なよ。」
 麻衣子があたしの前に立ちはだかって、話を聞かせようとする。通行の邪魔以外の何ものでもない。
 
「…邪魔。どいてよ。」

 あたしの一言で麻衣子がキレた。
「なによ!心配してあげてるのに!だいたいなんなのその格好!ほんとに雪女みたい!気持ち悪いよ!」

 麻衣子があたしに掴みかかってきたので、とっさに押し返した。

 ドンッという鈍い音とともに、麻衣子の体制が後ろに崩れる。

「あ…!」
麻衣子が小さく悲鳴を上げる。

バッシャーン。

 大きな水音をたて、麻衣子は凍てつく川に落ちた。

 麻衣子は水泳部だったが、落ちてすぐに動かなくなった。

 真冬の川や湖に落ちると、体が急激に冷えてショック死すると聞いたことがある。
 
 動かなくなった麻衣子を見て、鳥肌が立った。

 人はこんなにあっけなく死んでしまうものなんだ、と、しばらく呆然としていた。
 しかし、誰かに見られていたら、警察に捕まってしまうと気づき、あたしは辺りを見回して、人がいないか確認してから逃げるように帰った。