目が覚めると、真っ白な見知らぬ部屋にいた。
 
 首の後ろが痛んだが、我慢できないわけではなかった。

 着ていた着物は脱がされ、代わりに病院特有のシンプルな寝巻きが着せられていた。

 部屋を見回すと、入り口にさっき私に拳銃を向けた女が立っていた。
 あたしが目覚めたのを見て、すばやく拳銃をかまえ、あたしに銃口を向けた。

 それを見ても、この女を殺そうとは思わなかった。
 ほんの少し前の、自分の存在を守るための、この女への殺人衝動は不思議と消えていた。

 いつのまにか、「私」は「あたし」に交代していたようだ。

「えっと、軍人さん?」
 あたしは恐る恐る女に話しかけた。
「西藤よ。」
 女はまだ警戒している。銃を下ろそうとしない。

「それ、しまって下さいよ。あたしのことを警戒してるなら大丈夫。あの着物を着ているとき以外、力は使えないみたいなんです。」

 …あたしも今気づいたけど。

 「あたし」は人を殺す度胸なんでない。

 「私」が目覚めなければ、人殺しの能力は使えないのだ。