自分が雪女だと思い始めてから、鏡が好きになった。
 あたしは我ながら整った顔立ちだと思うし、肌はほくろひとつない。

 コンプレックスでしかなかった、透けるような肌は、今では誇らしい。

 雪女はその美貌で男を誘惑し、精気を奪い取って氷付けにすると聞いたことがある。 不思議とそれは私にもできる気がした。

 やってみたい、と思った。

 夜、あたしはまた白い着物を着て暗い夜道を歩いた。
 …全然寒くない。やはりあたしは雪女なのだ。

 こみあげる悦びを抑えきれないまま歩き続けると、橋の上で酔った男を見つけた。
 あたしは男に近づいて言った。
「ねぇ、私と遊びましょ。」
 男はにたにたといやらしい笑みを浮かべて寄って来て、あたしの顔を覗き込んで言った。
「おねぇちゃんそんな薄着で寒くないのかい?」

 その瞬間、私は男を川に突き落とした。男は冷たい川の中でもがいて、こちらに向かって何か言っていた。

 私は橋の上から石を投げて男の頭にぶつけた。
 男は動かなくなり、浮いてこなくなった。