「八月二十九日って空いてる?」

 二階の踊り場で一緒に昼食をとっていると、伊原くんから突然の誘いを受けた。今はまだ七月の初めなので、一ヶ月以上先だ。それに夏休み中のはず。

「うん、空いてるよ」

 私の返事に、目を輝かせた伊原くんが「じゃあさ!」と声を弾ませながら、スマホを取り出した。

「これ、行かない?」
「え! 当選したの!? 倍率高くって、私撃沈したよ!」

 伊原くんのスマホの画面にはトワのイベントのペアチケット。スマホを指差して目をまん丸く見開くと、伊原くんは誇らしげに口角を上げて頷く。

「運良く二枚当選したから、一緒にどうかな〜って思って」
「行きたいっ!」

 両手を組んで、興奮気味に身を乗り出す。

「じゃあ、一緒に行こ」
「ありがと〜! なにかお礼しないと!」
「いいって、お弁当時々お裾分けしてくれるお礼」

 にっこりと笑った伊原くんが眩しい。けれど、私がお裾分けしているものって時々失敗しているのもあるので、あれのお礼に当選チケットなんて申し訳なさすぎる。

 チケット代を渡すときに、伊原くんが欲しがっていたトワがデザインしたスマホケースをプレゼントしよう。


「あ、でもイベントって人結構いるけど、大丈夫?」

 人が多いとその分光が見えて疲れてしまう。けれど交電車に乗って学校へ毎日来ているので、さすがに最近は慣れてきて体調不良も起こさない。


「多分平気かなぁって思うんだけど……」

 念のため鎮痛剤と、お父さんが持っておいた方がいいんじゃないかと買ってくれた薄い茶色のレンズのメガネも持っていけば凌げる気がする。


「じゃあ、具合悪くなったりしたらすぐ言って。イベントも楽しみだけど、我慢はしないって約束」
「うん!」

 放課後に一緒に出かけることはあっても、ふたりで遠出をしたりイベントへ行くのは初めてのことで、八月が待ち遠しい。