香乃の言葉に嘘が含まれていることは、何度もあった。

 流して気づかないフリをして、私は穏便に過ごそうと思っていたけれど、あの嘘は忘れられない。

 香乃の本心は私を心配してなんていない。

 もしも嘘が見えなかったら——こんな思いをしなかったのだろうか。
 光感覚症が発症していなかったとしたら、香乃の態度からなにかを感じ取ってはいたかもしれない。でも気づかないふりをして、傍で笑っていれたはず。

 学校が終わり、帰宅する途中でスマホに通知が届いた。


「え……?」

 相手はゆーかちゃんだった。一応繋がってはいたけれど、私は香乃のように親しくはなかったので、こうして個人的な連絡がくるのは初めてだった。

『突然ごめんなさい。KANOちゃんとリア友だって聞いたんですけど、なにか私のこと聞いていませんか?』

 特に何も聞いていないということを話すと、すぐに返信がきた。


『実はKANOちゃんが新しいアカウントにしたとき、私はフォローされなくて。なにかしてしまったのか不安で……。DMを送ったんですが、無視され続けています』

 千世曰く、ゆーかちゃんが理有ちゃんと仲がいいことを香乃がよく思っていなかった。でも真実はわからない。


 香乃の中で、ゆーかちゃんに対して不満があったから切ったのだろうけれど、聞いても香乃は不機嫌になるだけで話してくれなさそうだ。


『私の鍵垢が流出して炎上した件も、最初はKANOちゃんが犯人だとは思っていなかったんですけど、この画像に映り込んでるアイコンの絵がよく似ていて……』

 送られてきた画像を開く。以前千世から見せてもらった、ゆーかちゃんの投稿をスクリーンショットしたものだった。よく見ると、左上にアイコンの絵が少しだけ見えた。

 香乃が絵師さんのプレゼントキャンペーンで当選して描いてもらったオリジナルイラストによく似ている。


『できたら私のDMに返事をしてほしいって伝えてもらってもいいですか。巻き込んでしまってごめんなさい』

 この件に関わることに躊躇いはあったけれど、香乃にメッセージを送っておいた。


 ゆーかちゃんから連絡が来て、DMの返事がほしいと言っているという要件だけ伝えると、すぐに既読がつく。


『他の人巻き込むとか、まじでありえない。てか、リセットしたのにしつこすぎる』

 香乃の苛立ちが伝わってきて、画面が赤く光る。
 言葉がなにも思い浮かばなくて、頭を下げているうさぎのキャラクターのスタンプを押す。それ以降は香乃から返事がくることはなかった。