次に目が覚めた時には、傍に大翔先生が私の手を握ってくれていた。
私には酸素マスクが繋がれていて発作と同時に意識を手放したことを思い出した。
「沙奈!大丈夫か…?」
「大翔…先生」
「大学の教授が俺に連絡をしてくれたんだ…
沙奈の状態を聞いた時、本当に血の気が引いたよ…
だけど、発作も落ち着いたみたいでよかった…」
半分身体を起こすと、私の存在を確認するかのように大翔先生は私のことを優しく抱きしめてくれた。
「しばらく発作もなかったのにな…
苦しかったよな…」
「ごめんね…大翔先生。心配かけて…」
「いいんだ、沙奈。沙奈が無事でいてくれただけで…」
「七瀬さん。目を覚ましたようだね…」
「あなたは…」
大翔先生は、その人の存在を確認すると優しい表情から険しい表情へ変わった。
それから、私を庇うように大翔先生は前に出た。
「大翔…先生?」
「大翔先生。何も七瀬さんを取って食べようとしてる訳じゃないんだからそんな怖い顔しないで。」
「どうして…あなたがここに。それに、沙奈に…」
「まだ、私の存在を隠しているんですか。」
隠してる…?
どういうこと…?
「沙奈のことを助けて頂いたことは感謝します。
ですが、今日はもうお引き取り下さい。」
大翔先生の背中から伝わる緊張感。
その緊張感が私にも伝わってきて少しだけ苦しくなり、大翔先生の白衣を後ろから握りしめていた。
「分かりました。では、失礼します。」
授業の講義をしてくれた教授が医務室から出ていった後、大翔先生は私のことを優しく抱き寄せてくれた。
だけど…
「大翔先生…
さっきの教授って…もしかして…」
何となく感じ取っていた。
講義中だって、ずっと私のことを見ていたしこの人から伝わる手の恐怖や匂いがあの父親と同じものだったから。
大学から配られたシラバスで、私の旧姓でもある『加須見』という苗字を見た時から違和感があった。
苗字しか乗っていなかったけど、この人はきっと奈子が前に話していた奈子の兄にあたる小児科医の加須見先生かもしれない
…
「沙奈、何となく分かっていたよな…
さっきの人は、小児科医の加須見玲音先生だ。
前に、沙奈が入院した時その子の妹である早見奈子ちゃんが沙奈に話した先生なんだ…
沙奈……
辛い記憶、蘇った?」
大翔先生は、頬を包み込み私の瞳を真っ直ぐに捉えていた。
その瞳の奥はどこか悲しそうで、本当に私の事を心配してくれている。
これ以上、大翔先生のことを心配させたくない。
だけどきっと……
奈子ちゃんは確か、加須見先生は私の父親と一緒に暮らしていると話していた…
あの人がまた、私の通う大学の名前を父親に出さなければいいけど…
「大翔先生…。
あまり心配しないで。私は大丈夫。
もう、これ以上過去に引っ張られたくないの。
だから、大丈夫だよ。」
「沙奈…」
そうだ。
いつまでも、過去に引っ張られたって仕方ない。
生きてる限り決して消えることの無い父親との血縁関係。
それから、私の人生に刻まれた過去。
変えられない事実だけど、いつまでも過去に囚われたくないから。
しばらく大翔先生は、私のことを抱きしめてくれていた。
例え、居場所を知られたとしても私はもう大丈夫な気がしていた。


