そう言えば考えたことはなかった。

私は、どんな人間だったのだろう。
今の私は生きていた頃の私とは当然違うのだと思う。
今の私には記憶がない。
しかしすべてを思い出せばたくさんの感情を知ることになるのだ。
誰かを憎む気持も知っていただろうし、もっと汚い感情も持っていたのではないか。
そうすれば私は、今のままでは居られないのだろう。

シオンさんやユウくんにも、どんな気持ちを向けていたのか分からない。

すべてを思い出すというのはこのままではいられないと言うことだ。


「怖い、な…。」


私はシオンさんを信頼している。
だけど、生きていたときは?
私たちの関係はどんなものだったのかなんて分からない。
彼女がライの妹であること以外に関わりがあったのかもしれないし、なかったかもしれない。
私たちがお互いにどんな感情を向け合っていたのかなんて、今の私には分からないのだ。

確信が持てない今の私は、迷うだけ無駄だろう。


「シオンさん。」
「なにかしら?」


さらり。
ピンク色の髪が揺れる。


「…なんでもないの。」


今はただ、彼女を必要としている私を信じよう。

だってこんなに世話を焼いてくれるんだ。
生きていた頃もきっと良い関係だったに違いない。


「変なくゆるちゃんね。」


やっぱり、ほら。
彼女の笑顔でこんなにも安心できるから。