嗚呼これは、夢。
また彼が見える。
黒い髪が綺麗な、ライ。
『くゆる、紹介するよ。』
彼の隣。
ぎこちなく笑った女の子。
小さく会釈したその子は、私を見ていない。
『こっちは妹の―――だ。』
漆黒の瞳。
白い肌によく映えるそれ。
そして何より、印象的なピンク色の――…。
一気に意識が覚醒するのが分かる。
目を開けると、そこは白い部屋。
昨日ユウくんの所から帰った私はすぐに寝てしまったんだ。
あの夢。
あの女の子は?
ぼやけてはっきりとした映像では無かった。
けれど、あの髪色は間違いなく、
「っ、シオンさん、なの…?」
彼女は彼の妹…?
でも、何故だろう。
どこか違和感のある夢で。
何が、とは言えないけれど、何か。
どこか腑に落ちない。
「なに、っ?」
ゆっくり、ゆっくり。
なにかが迫ってくる。
どくん、と心臓が大きく鳴って。
記憶をおおっていた霧が、無くなる…?
『くゆる…。』
「え、?」
耳元で、聞こえた声。
悲しみの混ざった声音は、彼の。
それはとても近くで、まるで耳元で呟かれたかのような。
耳に感覚が残っている。
ライが、私を呼んでいた?
「あら、どうしたの?」
ぞぉっと冷たい風が背筋を流れた。
するり、するり、彼女の手は私の首を撫でる。
後ろから抱き締められるように私を包む彼女には体温が感じられない。
「昨日、ユウの所へ行ったんでしょう?どう?何か思い出せたかしら。」
いつも通りのシオンさん。
それに少しだけ救われた。
相変わらず心臓は煩く鳴っていたけれど、なんとか平常心を保つ。
「とくに、なにも…。」
そう言いながらも、私の心の中は夢のことで一杯だった。