それからまたしばらく歩いて。
見えてきたのは、つやつやの黒髪。
それと、見慣れないものだった。
それはゆらゆらと揺れて落ち着きのなさそうな、影。
影と言う表現があっているのかは定かではないけれど。
人型で、漆黒のその影はユウくんの隣でだだ揺れていた。
右へ左へゆらゆらと、揺れているそれ。
ユウくんはその影の方をたまにちらっと見て困ったように笑う。
先客、なのだろうか。
その前にあれは人なのかさえも分からない。
しかし先客ならば邪魔するのは気が引ける。
見た所怪しいだけで、危害を加えることは無さそうだし。
私の用事は急ぎではない。
また来ればいいだけだ。
そう思い踵を返して歩き出した。
その時、
「あれっ、くゆるさん?」
とてとてと可愛らしい足音と同時、ユウくんの声が私を引きとめた。
その時、なにか得体もしれない妙な感覚が迫って来るのを感じて。
ずきんと頭の奥が酷く痛んだ。
それも一瞬、ユウくんの心配そうな表情で我に返った時にはなにもなかったかのように痛みは引いていた。
「だいじょうぶ?」
「うん、…平気だよ。」
胸にはあの感覚だけが、ただ残されたのだった。

