彼女に背を向けて、どれだけ歩いただろう。
歩いても歩いてもやはり進んでいく気はしなかった。

ここは不思議な場所だ。
死んだ人がはじめに来る場所。
時の狭間。

白く何もないこの場所に、最初に来たのは誰だったのだろう。
こんな所にひとりきりで怖くなかっただろうか。
私は目を覚ましたときにシオンさんが居て、ひとりきりではなかったけれど。

彼女には感謝しているのだ。

私がこうやって行動出来るのだって彼女が居るから。
あの笑い方と髪の色、今は彼女のすべてが私の支え。

だから彼女のことも、ちゃんと思い出したいと思っている。
特徴的な髪色だし、何かきっかけがあれば思い出せそうな気もするのだけれど。


「…、っと…危ない。」


下を見て歩いていたからか、壁が目前に迫っている事に気が付かなかったらしい。
壁ギリギリで我に返り、少し後ずさる。

壁にはあのドアノブ。
不思議なこの仕組みも一人ではどうにもならなかったに違いない。
本当、彼女には感謝している。