「ほら、起きなさい」


すぅっと目が覚めるのが分かった。
よかった、さっきのは夢だったんだ。
ほっとしたのもつかの間。


「聞いてるのかしら?」


高いトーンの声。
頭に響くような、優しい音色。
それでいてしっかり芯の通ったもの。
でも、知らない。


「……誰?」


知らない人がそこに居た。

淡いピンク色の髪。
気の強そうな瞳は漆黒に輝いていて。
白い肌によく映える。


「フフッ。そう、アタシの事、知らないわよね」


漆黒の瞳の彼女は楽しそうに喉を鳴らした。
何がそんなに面白いのだろうか。

一方的に笑われるなんて、あまり良い気分ではないのだけれど。


「アタシはシオン。よろしくね、くゆるちゃん」
「私の名前知ってるの?」


当たり前のように私の名前が出てきた事に、驚きよりも気味が悪いと思った。
私はこの人のことをなにも知らないのに。

そんな私に気が付いたのか、シオンさんは目を細めて愉快そうに口元を歪める。


「警戒してるのね、くゆるちゃん」


そろそろと伸びてきた彼女の手は、私の頬を滑った。


シオンさんの手はやけに冷たくて。
ぞぉっと背筋が凍るのが分かった。