俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました

それだけならまだいい。
けれど、美夜はあの街に戻るのが怖かった。



プロパティーでの三年で、沢山名前を売った。それは最終的には悪い意味で浸透してしまった。

駅前の再開発でトラブルとなった地主は、地元の盟主だ。街を出る前に、すでにあることないこと噂は流れていた。
今なおその噂があるかは知らないが、当時の美夜は、地主を騙して体で契約をとった悪女だ。
音夜についていって、不適合だと烙印を押されたら、夜尋と一緒に路頭に迷ってしまう。


音夜は思ってくれているのがわかる。けれど、周りは美夜を認めないだろう。
相応しくない。
自分だってそう思うのに、音夜の家族が赦してくれるとは思えない。

夜尋を授かったのも計算だと罵倒されたら、立ち直る自信がなかった。


音夜の空いた肩に額をコツンと当てる。

すると、音夜の腕が美夜の肩を抱いて引き寄せた。


「―――――っ……」


体はぐらりと傾き、音夜の上に覆い被さってしまった。悲鳴を押し込める。


「お、音夜……起きてたの?」

「いま目が覚めたの」


抱き寄せた腕が、後頭部から背中を撫でた。ピクリと反応すると、音夜は嬉しそうに目を細める。


「お疲れ様」

「音夜も……ありがとう、あの、わたし……」

「しー」


音夜は美夜の唇に指を充てた。窘めるようにちょんちょんと触られて、美夜は顔を真っ赤にする。


「ちゃんと聞くよ。けれど、今は寝よう」

「え?」

「話してると夜尋が起きちゃうよ。夜尋も寝不足なんだ。だから、ね。ほら、美夜もおいで」


ぽんぽんと背中を叩かれた。


(あ……)


赤ちゃんの寝かしつけみたいに、一定のリズムで叩き続ける。それはとても心地良い。


「川の字で、俺が真ん中なんて幸せだな……」


微睡みながら言った。
すぐにそのまま寝てしまう。

自分と反対側の胸に、小さな手が乗っていた。
重いかなと思いつつも、音夜の胸の上で夜尋の手を握る。

音夜の体は暖かかった。


(ああ、気持ちがいい……)


匂いも体温も、すべてが安心できる。

心地良い疲れが全身を襲った。美夜もそのままストンと眠りに落ちた。