俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました

「……結婚……していたのか……?」


低い呟きにびくっと肩をゆらした。


「それに、子供まで……」

かなり動揺した声色だ。
表情をうかがうと険しい顔をしていた。眉間にしわをよせて考えている。


「いつ……結婚したんだ? 相手もここの従業員か」

「っ……あ、あのっ」


ちゃんと言わなくちゃ。説明して謝らなくちゃ。そう思うのに、喉がひりついて、言葉がでてこない。


「あの……!」


覚悟を決めて告白しようとしたとき、今度は、女将のいつもより少しだけ高めの声が飛んできた。


「あ!! 美才治《みさいじ》さん!! 美才治さんですね? 美夜ちゃん会えたのね、よかったわぁ」

「女将さん」

女将は駆け足で寄ってくると胸をなでおろした。頬が上気している。


「やっとお会いできました。どちらにいらっしゃったんですか? もう、お忍びでいらっしゃるなんて、びっくりです」

「すみません。うろうろしてました。まずは旅館の自然な雰囲気を知りたくて。女将さんですね。先日はお電話ありがとうございました。美才治音夜です。わからないことばかりでご迷惑をおかけすると思いますが、今日から一ケ月、よろしくお願いいたします」


音夜はそれまで硬かった表情を、すっとやわらげた。


「まあ、ご謙遜を。どちらの職場でも、とても有能なお仕事ぶりという評判をうかがっているんですよ。それにしても、常務取締役自ら来られるなんて……各社の現場を必ず勉強するって噂、本当だったんですね。緊張してしまいます」

「やめてください。噂でハードルが上がりすぎでこちらこそ緊張します。常務だなんて名ばかりで、まだまだペーペーですよ。顎で使ってください」



おしゃべり好きな女将に音夜がくだけて話すと、女将は美夜に「気さくそうでよかったわね」と耳打ちした。

会話が上手く、物おじしないところは変わっていない。
以前より尖った感じがなくなり、柔らかい雰囲気だ。わざわざ偉そうにしていなくても、仕事の出来るオーラがある。