俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました

「わっ」

同時に背中にどすんと体当たりされる。


「ちゅかまえたよー」


小さな手がお腹にまわり、ぎゅーっと作務衣を掴んだ。
保育士が慌てて走ってくる。


夜尋(やひろ)くん、お母さんはお仕事中だから、邪魔しちゃだめですよー。すみません、手嶋さん。
お散歩の帰りだったんですけど、お母さん見かけたら突進していっちゃって」

「あ、いえ、大丈夫です」


保育施設も旅館内にある。同じ敷地内だと仕事中に会ってしまうことは良くあった。
預け始めはママが良いと泣かれてしまうから、ばったり会ってしまうと困っていたが、今は一瞬の癒しを求めて、姿が見えないかと探してしまうほどにはお互いになれていた。



「おはなちゅんできたの」

山で摘んできた白と黄色の雑草花が、あいっと目の前に差し出される。


「あげる」

「かわいい。ありがとう」

とたんに気持ちがほっこりとした。


「ママころんしてあしょんでたの」

「ふふ、ぶつかって転んじゃったの。遊んでたんじゃないよ」


立ち上がり落としたリネンを指さすと、「おっきいねー」と夜尋が飛び乗った。


「乗っちゃだーめ。お仕事のものだからね」

抱き上げると、「あいっ」とかわいい返事をした。

むちっとした体。高い体温。すべすべのほっぺた。疲れを浄化してくれる存在だ。


「おしゃんぽねー、はらっぱいったの。おっきいむしいてねー」


散歩がよほど楽しかったのか、原っぱで見た虫を手ぶりで教えてくれた。


「夜尋くん。お母さんも仕事だし、おひるの時間になっちゃうから、またお迎えきてもらったらお話しようね」

「あいっ」


最近、警察をモチーフにした戦隊ものにはまっているため、しゃっきっとした返事と敬礼が定番だ。
降ろすと気を付けをして立って、指先までそろえた手をおでこに添えた。


「じゃあお母さん、今日のお迎えは、お昼寝後の16時でしたね。またその時に」

「ええ、よろしくお願いします」


ぶんぶんと大きく手を振る夜尋に、こちらも軽く振って応える。
夜尋を抱っこした保育士は去り際に、美夜の後方に向けて頬を赤らめて会釈をした。


そこで、音夜がいたことをはっと思い出す。