俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました

「どうした? コーヒー飲めたよな」

声をかけられてはっとする。

「え、あ……」

「何? 紅茶のほうがいい?」

「え、あ、わたし、が……」


これ以上、迷惑をかられない。

わけがわからないが、とりあえずここは自分が動くべきだろう。
慌てて立ち上がろうとすると、足に力が入らなくべしょっと床に落ちた。


「あ、あ、わ、ぎゃっ」


シーツも絡まって顔面を床に打つ。


「うわ、何やってんの……」


冷静な声とは裏腹に、素早く音夜がかけよる。シーツが絡まって床に這いつくばる美夜を、ふわりと抱きかかえてくれた。

身長差があると知っていたが、そう簡単に抱き上げられると自分が子供のようだ。


「はは、立てないとか」


また馬鹿にされると身構えたが、音夜の声は甘かった。目尻が垂れている。


「……ちょっと、夢中になりすぎた、な」


な、と同意を求められても、美夜《みよる》は冷や汗しかでなかった。
「もう、音夜《おとや》ったら」だなんていう、こってりと甘えた返しは到底できない。

“ちょっと夢中”は、きっと昨夜の情事を物語っている。一つも記憶がないとは言い出せずに、視線をさ迷わせながら曖昧な返事をする。

音夜は大事なものを扱うように、美夜をゆっくりとベッドに下ろした。


「動けないだろ。美夜は無理しなくていいよ」


(――――――いや完璧……!!)


高級ホテル。たぶんロイヤルスイートルーム。極上の男。情事翌朝のやさしい気遣い!
はにかむ様な笑顔の音夜が目の前にいて、目が回った。

いつから名前で呼ばれているんだろう。

昨夜まではライバル社のライバル営業同士。
顧客をとりあって会えば口喧嘩しかせず、面識は仕事上の現場でのみだ。

出会ってから1年。プライベートの連絡先を知っているわけでもなく、ランチひとつさえしたことがない。