俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました

音夜(おとや)の薄い唇に頬をなぞられると、全身が粟だった。

触れられたところから蕩けて、ふやけて、頭の中がふにゃふにゃになった。
ゆるやかに開いてしまう唇から、いつもの自分ではない、甘い吐息が漏れる。


音夜はやさしくそれを塞いだ。

細く長い指が、擽るようになぶっていた耳朶からゆっくりと降りて、肩を撫でる。
視線を合わせると、いつもは自身に満ち溢れ憎たらしいと思っていた切れ長の瞳が、瞬きの音が聞こえそうなほど近くにあった。


音夜の腕が美夜の体を、くっと持ち上げる。
背中がしなり、ベッドのスプリングで体が揺れた。

毎朝ムキになって巻いていた髪が乱れる。
これでもかというほど塗りたくっていた化粧は、いったい今どんな状況なのだろう。

きっと涙で大変なことになっているに違いない。

そんな状況で、音夜はまるで美夜が恋人だと錯覚するような極上の笑みをむけた。
触れる手はとことん優しい。



「――――美夜(みよる)。やっとお前が―—……」



体を重ねるその瞬間に、音夜がなんと言ったのかはわからない。
意識が朦朧としていて、いる場所も状況も、なにもかもが夢心地だった。


最大のライバルである、志波音夜が目の前にいるのがとても不思議だった。

二人が会うのは仕事中だから当然ではあるが、スーツ姿しかみたことがなく、もちろん触れたことなど皆無だ。握手すらない。


背が高いだけのもやし男だろ思っていたが、どうやらそれは見当違いで、脱ぐと随分と筋肉質なことがわかった。

音夜の腕の中にすっぽりと納まると、体格差を意識せざるを得ない。自分より遥かに広く、逞しい胸が守ってくれるようで、とても安心できた。


霞んだ視界を音夜から逸らすと、カーテンが開け放たれたままの窓。
窓は天井から足元まで広がり、特別感を演出する。

ガラスの向こう遠く足元に、無数に散らばったネオンと、星のない夜空だけが見えた。