俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました

「わたしが邪魔をしたのではなくて、大当(おおあたり)社長は出すタイミングをうかがっていたと思いますけど」

「だから、君が来たからしめしめと思って案件を先送りにしたんだろう」

「最低価格で買い取ろうと、強引に商談を進めようとしていたんじゃないですか」

「俺はそんな交渉はしない」


舌打ち交じりの言葉は独り言であった。そっぽを向き、自分とは違う方向にぼそっと吐き捨てられた。
プライドを持って仕事をしているようだ。


おおあたり不動産と美才治不動産との値上げ交渉に、自社のプロパティーが咬ませられるのは目に見えていた。
しかり、咬ませ犬で終わるつもりはない。

新しい情報は手に入れるし、先ほど垣間見えた案件は美才治不動産に取られても、ルートの確保と他の案件の紹介はしっかりもらうつもりだ。


「わたしにもお名刺をいただけますかね」


そう言いながら、男は不本意そうに自分の名刺を先に差し出した。
最低限のマナーはくずさずにいるが、不機嫌なのを隠すつもりはなさそうだ。


交換した名刺には、MISAIJI(ミサイジ) RIAL(リアル) ESTATE(エステート) 志波音夜《しばおとや》と書かれていた。

裏を見ると、基本の宅地建物取引士の他に、ファイナンシャルプランナー、建築士、カラーコーディーネーター、インテリアコーディネーター、マンション管理士、管理業務主任者、土地家屋調査士……と取得済の資格が羅列されている。


(ちょっとまって、マルチに頭良すぎ……!)

その多さにうっと及び腰になる。


若く見えるが、一体何歳だろう。30前後と言ったところだろうか。短期間で、そう簡単に取れるものではないものまで含まれている。


「プロパティーの手嶋美夜さんね」

音夜は名刺と美夜の顔を交互に見比べた。


音夜はミヨル、ときれいに発音した。漢字だけだとミヤとかミヨに間違えられやすいので、名刺にはちいさくMIYORUとローマ字表記も記載している。

それでも間違える人が多いなかで、ちゃんと名前を呼んでくれる人は好印象となる。