俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました

「女将さん……ありがとうございます……」


正面の玄関を出ると、車寄せに、丁度真っ黒なセダンが滑り込んだところだった。


迎えに来たのは運転手と秘書だ。
音夜の秘書もついて来たのは、途中に立ち寄らなくてはならない場所もあり、帰りの車で打ち合わせしなくてはならない案件が、いくつもあるからだそうだ。

運転手が下りて後ろのドアを開ける。

こんなセレブな光景を見るのは二度目だなぁ。


(――――――あれ?)


その時、不思議に思う。
運転手と、秘書だけのはずだ。

運転手って、秘書のドアも開けてあげるんだ? っていうか、秘書は後ろに乗るんだ?


そんなことを考えていると、後ろのドアから出てきたのは中年の女性だった。
白いツイードスーツに身を包み、同素材のノーカラージャケットを羽織っていてとてもエレガントだ。


「音夜さん。研修ご苦労さまでした」

「専務!? なぜここに……」

「あら、今日は母親としてここに来たのよ。専務は禁止ね」


そのやりとりにぎょっと目を剥いた。美才治千恵子。音夜のお母さんだ! 


鈴堂綾香の件は本社へと連絡が行き、会社上層部へ伝わり、取引関係の契約が動き出したと聞いている。

……母親としてきたというのは、まさか、その件で……


さーっと血の気が引いた。背中に嫌な汗が次々と伝う。
怒鳴られるかも。息子を誑かして、なんて文句を言われて……


懸念していた最後の壁は、音夜の両親の承諾だった。


許可をもらえなければ、一緒に暮らすことなんてできない。無理矢理自分達の気持ちを貫いても、何れどこかに綻びが生じる。それは嫌だった。

日本を代表するグループ会社の御曹司、音夜との入籍が、簡単ではないのは想像に容易い。
きっと綾香のような令嬢はたくさんいて、お見合いや紹介もたくさんあるだろう。

以前、綾香に言われたとおり、美夜には容姿も経歴も後ろ盾も、何も誇れるものはない。


突然の来訪に、緊張でくらりと眩暈がした。

でも、チャンスだ。
ちゃんと説明して、一緒に居させて欲しいと伝えなくては。