俺様御曹司が溺甘パパになって、深い愛を刻まれました

音夜は落ち着いたら一緒に暮らそうと言ってくれた。

すぐにでも一緒に山を下りたい気持ちも、もちろんあるが、この星林亭への恩義も忘れていない。いくらなんでも急に辞めますなんて出来ない。旅館側にも増員の準備が必要だし、自分にも夜尋にも準備が必要だ。


「寂しいよね」

「まあ。でも、もっとここで働きたいって気持ちも捨てきれないんです。星林亭のおかげで、今のわたしがありますから」


一番の悩みは、泣きじゃくる夜尋の説得であった。


しばらく3人で会えなくなる。それは理解はできないかもしれないけれど、ちゃんと話しておこうと二人で決めた。

いざ話をしたら「やーなの。めっなのー。ぼくもパパといっしょいくのー」と大泣きしてしまったのだ。


音夜はうれしくもあり悲しくもある、複雑な顔をしていた。


それは二日前の話である。

音夜について、夜尋だけ付いていくか、もう少し音夜が残れるようにスケジュール調整をすることも考えたが、立場ある音夜は、スケジュールが詰まっていて忙しい。
そう簡単に変更できるはずがなかった。


その期日が明日ということを、まだ日にちの感覚がもてていない夜尋は、たぶんまだわかっていない。


自分が合わせ、なるべく早く旅館の仕事を辞め、音夜に付いていくのが一番穏便だとわかってはいるものの、しっかりと恩返しをして、然るべき日にきちんと退職したいという思いは譲れなかった。

その気持ちを音夜は理解してくれている。

しかし、大人の都合で、夜尋を振り回してしまっているのでは、という気持ちも生まれていた。

こんなに寂しがっているのに、自分の選択は間違っているのではと、未だに悩んでいる。
それに、もうひとつ、クリアしなくてはならない問題が美夜にはあった。


音夜と籍をいれるにあたって、最も大きな壁だ。

それも解決していないのに、山を下りるのは早々な気がしているのだ。


音夜にも言いづらく、どのタイミングでどうやってクリアするべきかと、そちらにも頭を悩ませていたが、その問題解決のタイミングは次の日、音夜の下山とともに訪れた。