「だよねー。
でも怖かったでしょ?」


この質問に対してもまた
彼は首をゆっくりと縦に振った。


「分かるよー、その気持ち。」


「そ、そんな嘘言わなくても
いいですよ…。」


「いや、嘘じゃないよ?」


「え…、それってどういう…。」


彼が言いたいことに気付いた私は
それを遮るように立ち上がった。


「まぁさ、人間生きてれば色々あるよ。」


ほんとに人生とは分からないものだ。


でも


「ここから抜け出したくない?」


「…え?」


「今の自分から、新しい自分に
変わりたくない?」


長い前髪と分厚い黒縁メガネの
向こう側に見える彼の目を見つめて
問いかけた。