あの夏の日の午後のこと、私はきっと忘れないだろう


「紗良ちゃんがイヤだったら、美也子さんに渡してもらっても……懐かしいと思ってくれるかもしれないし」
「イヤとかじゃなくて……いいんですか?」
「ん?」
「これ……伯母さんの、なんでしょう?」

雑談で少し和んだおかげか、私はまっすぐに雄太さんを見ることができた。


見返す顔に潜む、以前はなかった翳り。

私が、伯母さん、と口にした時に揺れた瞳。

震えるように少し強張った頬の動きも、全部。


「この家から、なくなっちゃってもいいんですか?」

そう切り込むと、ひゅっと息を飲むような顔で、雄太さんは動きを止めた。

「うん………そうだね………」

目を伏せた雄太さんは、唇だけを笑うように少し持ち上げて言った。

「このまま置いておいても…………僕は、着れないしね」