婚約解消するはずが、宿敵御曹司はウブな許嫁を愛で尽くす~甘くほどける政略結婚~


自分のグラスには三つほど氷が浮いているのに対し、怜士のグラスには氷を入れていない。

小学生の頃から、彼は『氷があると飲む量が減る』と言って頑なに氷を入れずにいた。

男のくせに小さいことを気にするんだねって何度もからかったことがあるけど、『純粋に飲み物を飲みたいのに氷が邪魔だ』とよくわからないことを熱弁していた。

幼い頃のエピソードを思い出し、自分の無意識の行動に、私はいよいよ顔から火が出るほど恥ずかしくなった。

「別にっ、ずっと覚えてたとか、そういうのじゃないから!」

抱き締められてうろたえてしまったのを隠したくて逃げたはずなのに、これでは自爆しにいったようなものだ。

幼い頃に染み付いた記憶は簡単には消えない。

ここ数年は顔を見ないどころか連絡さえ取っていなかったというのに、いまだに怜士の小さな癖を覚えている自分が滑稽にさえ思える。

「それより、話! するんでしょ」

私は強引に話題をすり替えると、もってきたお茶をごくごくと飲み干す。

フッと笑った怜士を視界に入れないようにして、十年前のことを話し出した。