「両家の顔合わせの席で『結婚しません』なんて宣言したのに、結局私は大勢の従業員から恨まれる覚悟がなくて、自由を手に出来なかったんです」

両親や怜士に向いていた怒りは、時間が経つほどに自分の不甲斐なさへの絶望感に変わる。

氷の溶けかけた濃厚なココアを飲むと、まろやかな甘さが私を少しだけ癒やしてくれた。

「悔しかったから、怜士以外の人とちゃんと恋愛してから結婚するって言ってやりました」

とはいえ、いまだそんな相手は見つからず。

そもそも積極的に探してもいないし、そうそう素敵な出会いが転がっているはずもない。

恋愛に憧れや理想はあるものの、いざその相手となると、なにもビジョンが浮かんでこないのだから困ってしまう。

社会人になってすぐの頃は、大学時代の友達に誘われて合コンに行ってみたりもしたけれど、どの男性にもときめいたり恋のはじまりのような感情は抱けなかった。

もしかしたら私は、この先誰にも恋をしないまま政略結婚するしかないのだろうか。