雪のとなりに、春。

「お父さんならしばらく帰ってきてないわよ?」

『そっか』

「今に始まったことじゃないのに、どうしてそんなこと聞くの?」


近くの総合病院の内科で働いているお父さんは、多くの患者を診ており病院で寝泊まりするのが殆どだ。
家に帰ってくることなんて滅多にない。

金銭面では困らなかっただろうが、奈冷含めて3人の子供の面倒を見てくれたお母さんの負担は計り知れないだろう。

それも、ただの子供じゃない。

何も知らないはずの周囲から期待も含めて口を揃えて「天才」と言われた子供を、一度に3人だ。


奈冷のお父さんは、わたしのお父さんの兄にあたる人で、修行と称して海外での仕事を選んだそうだ。
聞けば、奈冷のお母さんも現地で活躍しているのだそう。


今考えると、医師免許もなにも持っていないお母さんは数々のプレッシャーと戦っていたのかも知れない。


『んーや、父さんも頑張ってんならお兄チャンも頑張らなきゃなーと思って。カナメからも応援されちゃったしね』

「そう。わたしも頑張るわ」

『おー、また文句言いたくなったらいつでもお兄チャンに電話しなさいよ?』


電話越しの兄にはすべてお見通しのようだった。

それにしても、やっていいことと悪いことの区別はそろそろつけてほしい。
妹の格好をするのだけはやめるように強く訴え、今度こそ通話を終了した。


「ふう……」


机に突っ伏してしまった。
こうなると勉強を始めるまでに時間がかかってしまう。

顔にかかる淡い青の髪の毛を手で触れた。
いやでも思い出すのは好きな人のこと。