雪のとなりに、春。

『落ち着けってカナメ、お兄チャンがなんとかしてやるから』


いつもそうだ。
子供の頃からいつもそう言って、本当になんとかしてくれていた。

1問間違えただけで眉間にしわが寄るようなお母さんの機嫌を、いつもうまくとってくれた。
人に愛想を振りまくのが何よりも上手くて、お母さんが1番気にしていたご近所付き合いも誰よりもうまくこなしていた。

兄はいつも完璧だった。

そんな兄の言葉を、今日初めて疑った。


「もう奈冷に迷惑かけるのはやめて。お兄ちゃんに何かしてもらわなくたってわたしは自分でなんとかできる」


何が「遊び」よ。
何が「目を覚まさせてやれ」よ。

奈冷は間違いなく、小日向花暖と真剣に向き合っている。

……今思えばおかしいところはたくさんあった。

お兄ちゃんから奈冷の情報を聞く度に、どうして知っているんだろうと疑問を持つべきだった。

小日向花暖。
あの女が私から奈冷を奪っただけでなく、奈冷の家に一泊したと聞いてどうにかなりそうだった。

もう少し冷静になればすぐたどり着く疑問だったはずなのに、自分のコントロールができなくて。
気付けば朝一に小日向花暖のいる教室へ足が向かっていた。

初めて会った小日向花暖という女は、桃色に染まった髪の毛を頭上でお団子にして、丸い顔に寸胴な体。
まるで小さな子供のようで、あの奈冷に似合うとは到底思えない容姿。

こんな人に奈冷を奪われたと思ったら、燃え上がるような怒りを感じた。

しかも「友達になってくれないかな？」などと訳の分からないことを平気で言ってくる。
どういう神経をしているんだ。

奈冷のことを知ったような口ぶりで語るのも意味が分からない。
一体何様のつもりなんだ。

ぽっと出の女が、奈冷を語るな。