雪のとなりに、春。

『ええ、なんのこと?』

「とぼけないで。こっちは今日、全部奈冷から聞いたんだから」


数年ぶりに兄から連絡が来たのは、私が寮から実家へと荷物を移動し終わった頃のことだった。

入学式まであと2週間。
つまり、あと2週間で奈冷に会える。

わたしの心は踊っていた。

奈冷に会えるのは実に3年ぶり。
きっととても素敵な人になっているんだろうな。


この日のために私は今まで頑張ってきたんだ。

奈冷と離れてしまうと分かっていても、お母さんから出された最後の条件を満たすために中学校は寮生活。
中学を卒業して、わたしは奈冷と同じ高校に入ることを選んだ。

提示された条件をすべてクリアしたわたしに、もちろんお母さんは反対することなんてできなかった。
……代わりに、子供の頃よりも態度は冷たくなってしまったけれど。

そんな時にスマホの画面に懐かしい名前が表示されたからかなり驚いた。
2つ年上の兄もまた、お母さんの期待を一身に背負って今も勉学に励んでいる。

わたしや奈冷よりも期待されていたし、一番お母さんに気に入られていた兄は、わたしの憧れでもあった。

男子からいじめられるわたしを守ってくれたし、奈冷に抱く恋心を先に気付いて相談に乗ってくれていたのも兄だった。

……独創的かつ奇想天外な行動をとることも多かったことを思い出し、わたしの格好で奈冷の家に押しかけたことにも妙に納得してしまい、深くため息をついた。


その日兄から聞いたのは、久しぶりに奈冷に会ったことと、奈冷に彼女ができていたことだった。
きっと遊びに決まっているから、奈冷の目を覚まさせてやってくれと。


「……全然、遊びなんかじゃなかったわよ」


スマホを持っているのとは反対の手で、スカートをぎゅっと握る。
少し伸びてしまった爪が刺さって、布越しでも少し痛い。