雪のとなりに、春。

保健室に着いたはいいものの、どうやら先生は不在みたいだった。


「花壱や小池氏には俺からざっくり説明しとくから、お前はとりあえずここで休んどけ」


一番奥のベッドに案内されて、腰掛ける。
環くんの言う「ざっくり」の中に奏雨ちゃんのことも含まれているんだと察して、「ありがとう」と小さく呟いた。


「……カノ」

「うん?」

「……んや、なんでもない。こっからは王子様の役割だな」

「王子、様……?」


保健室の外から、足音が聞こえる。
それは少しずつ近づいてきて、やがてさっき閉めたはずのドアが乱暴に開けられた。


「花暖先輩!!」

「っ!?」


……王子様が、本当に来てくれた。


「タマキ先輩、連絡ありがとうございます」

「まーじでナイスタイミング。俺テスト勉強しなきゃで教室戻るから、カノよろしくな」

「しなくても余裕のくせに。まあわかりました」


環くんは、すれ違いざまに雪杜くんの肩をぽんと叩くと「じゃあな」と一言声をかけてから保健室を出て行ってしまった。


「ゆ、雪杜くん……なんで……」


雪杜くんは近くにあった椅子をひょいっと持って、私のすぐ傍にそれを置いて腰掛けた。
目線が同じくらいの位置になって安心する。