雪のとなりに、春。

***

不機嫌そうな雪杜くんに「連絡してって言ったよね」と怒られてからだいたい10分くらい経った。
さっそく唐揚げ作りに取り組んでいたけれど、リビングの方からずっと送られてくる視線に耐えきれなくなって唇をとがらせた。


「……もう、どうしたの雪杜くん」

「……」


さっきまで読んでいたはずの医学者や、テーブルの上に並べられていたはずの文房具達はすでに片付けられていて。

……まるでエサ待ちのペットのような眼差しを私の方に向けてくるから、心臓がぎゅうっと締め付けられる。
このままその眼差しをダイレクトに受け続けると、かわいさのあまり呼吸困難になって倒れかねないので、手元の鶏肉へ視線を戻した。

そんなに見られると恥ずかしいんだけどなあ……。

できるだけ同じ大きさになるように包丁を入れて、先に用意していた調味料達が入っている袋に入れていく。
なじむように袋の上からもみ合わせながら、もう一度雪杜くんの方を見た。


「……」


もう……待っている間好きなことでもしたらいいのに。
なにが楽しいのか相変わらず雪杜くんは私の方をじっと見ていて、時折嬉しそうに目を細めている。

随分一緒にいたはずなのに、私の知らない雪杜くんの表情はまだまだたくさんあるんだと感じる。


「よし、っと」


あとはしばらく浸けておくだけ。

手を洗ってからくるりと雪杜くんの方を見て、我慢していたものを爆発させるみたいに雪杜くんに向かって飛びついた。


「うわっ!?」


突然のことのはずなのに、相変わらずバッチリ私を受け止めてくれた。