雪のとなりに、春。

「雪杜くん、野菜が嫌いなんだあ」

「だから、食べないだけ」

「そっかあ~、ふふふ」


また新しい雪杜くんを知ることができてつい何度も言葉にしてしまう。

本人はさっきから「食べないだけ」と強く主張してくるけど、言えば言うほど苦しいことに気付いていない。

雪杜くんは、野菜が嫌い。

てっきり好き嫌いなんてないんだと思っていたけど、そうじゃなかったみたい。


「……ああもう、なに!? 好き嫌いなし、バランスのとれた食事を自分でいつも作ってるとでも思って幻滅した!? 悪かったね毎日カップ麺で!!」

「毎日カップ麺……」

「ハッ……」


慌てて口を押さえたところでもう遅いよ雪杜くん。
私は聞いてしまった。


「……」


買い物カゴの後ろから顔の上半分を覗かせたと思ったら、どうしようというように紺色の瞳が下へ、さらに右へ左へいったりきたり。

それから恐る恐る私をその瞳にやっと映してくれた。


「……ふふ」


我慢しきれずまた笑みがこぼれると、買い物カゴに隠れていた真っ赤な顔があらわになった。


「な、何笑ってんの、もういい知らない置いてくから!!」

「わあっ、ごめんなさい置いていかないで!!」


そうして拗ねたように先に歩き出して行ってしまうから、慌てて雪杜くんの服の袖をつかむ。

すると、むうっとした表情で私の方を見て。


「……じゃあ、唐揚げ食べたい」

「からあげ!!」