雪のとなりに、春。

「…………」


その光景から目を離すことは簡単ではなくて。
隣にいる皐月が今どんな表情をしているのかすら、確認することはできなかった。

それでもやっぱり、考えていること、感じていることは変わらず同じような気がする。


雪杜家の「医者になるのが当たり前」というような、そんな暗黙のルールみたいなものが俺は嫌だった。

反抗するように奏雨や皐月とは別の道を選んで、気付いたときには憧れた父親の背中を追いかけることすらやめていた。

「反抗をする」選択をしたのは間違いなく俺の意思。


「……珍しく独り言、イイ?」

「どうぞ」


「独り言にしてはいやに真面目なトーンだね」なんて野暮なことを言うつもりにはなれなかった。


「オレさー、トリアージ中に思っちゃって。なんで医者目指すのやめたんだよって」

「…………」


瞬時に判断して、迅速かつ的確に処置をしていく皐月がいたから。変に焦ることなく、でも急いで処置に当たることができた。

あの日の出来事は非日常的で、長くて、でも一瞬で。

何でも道具がそろっている病院とは違う。
手元にあるもので、今できる最大限を。

あとから到着した救急隊や警察にはおおげさなくらいに賞賛されたけれど、俺たちは決して満足していなかった。


ああすればよかった、こうすればもっとできた。


今、目の前で起こっている奇跡みたいな光景を見ると余計に思う。

もしもあの場に父さん達がいたら、どうしていただろうかと。

果たして俺は、あの日皐月がいなかったら1人であの人数を捌くことができただろうかと。