――「今日は、みんな帰ってもらっていいですか」


雪杜くんのたった一言の意味を理解した環くんと信濃くんは、ただ頷いた。
私はというと、相変わらず雪杜くんの腕の中。


「奏雨」

「……奈冷…」

「いいから出てけ」

「!」


雪杜くんの突き放すような言葉に、奏雨……ちゃんも2人の後を追うように出て行ってしまった。

玄関の閉まる音と一緒に、わざわざバスに乗ってきたのに!!なんて声が聞こえた。

バス……バスかあ。
奏雨ちゃんの家はご近所さんじゃないんだ。

どうりで見たことないわけだよ。

あんなに綺麗な人がご近所さんだったら絶対に知っているはずだし、なにより今まで出会わなかったわけがない。


雪杜くんの婚約者だというのなら、なおさらのこと。


「……はあ」


頭上でため息が聞こえて、同時に腕の力が緩められた。
雪杜くんとの間にできたわずかな隙間に空気が入り込んできて、少し寒くて、すごく寂しくて。

久しぶりに抱きしめてもらえたのが嬉しかったなんて、状況が状況だから言えない。


「……なに、その物欲しそうな顔」

「えっ」