「本当は昨日帰国したんだけどな、ちょっとしたトラブルがあって家に帰ってこられなかったんだ」

「トラブル?」


花暖先輩と母さんは頭の上に花をまき散らしておしゃべりを楽しんでいる。
どんな人の心の中にもすっと入っていける者同士、気が合うのだろう。

そんな2人を見た父さんも俺と同じことを思ったようで、俺たちは邪魔にならないようダイニングテーブルの方へ移動した。


「帰国してすぐ、ハクのいる病院に行ってきた。せっかく話が盛り上がってきていたところだったのに、患者が大勢運ばれてきてな」

「へえ……それで、父さんも手伝ったわけ?」


先に座っているのを横目に、俺はコーヒーをいれる。

スティックシュガーを10本くらい持って、父さんの前に雑に置いてやった。

ついでに自分の分も用意して、父さんと向かい合うようにして座る。


……うわ、もう5本目入れてる。



「さすがに数が数だからな。幸い、現場での応急処置がどれも適切で随分助けられたよ」

「ふーん。すごいね」


結局10本目の砂糖をコーヒーに投入した父さんは、それに必死に息を吹きかける。

なるほど。猫舌も健在らしい。


「とぼけるな。お前だろ、やったの」


そんな、犯人を特定するみたいな言い方やめてくれる?
別に、悪いことしたわけでもないのに。

視線を父さんから横にずらして、俺もコーヒーをひと口含む。……フリをする。


「よくあの人数捌いたな。……うわ苦」

「……俺だけじゃなくて、皐月と花暖先輩もいたから。持ってくるから座ってて」