雪のとなりに、春。

「奏雨」

「なによ。言っておくけど、文句は言わせないわよ? あなたが自由にしろって言ったんだから」

「奏雨は奈冷のどこが好きなの?」

「え、な……急になんなのよ!?」


あまりにも突然の質問に、顔が真っ赤に染まる。たぶん耳まで赤くなってると思うけれど、なんとか髪の毛で隠せているはずだ。


「作品作りの参考に?」

「……どこがって……聞かれても……」


子供の頃、初めて会ったときからわたしの世界は奈冷で塗りつぶされた。

落ち着いていて、大人で、常にクールな表情の奈冷が。
わたしに彼の夢を教えてくれた。
その時の奈冷の表情は生き生きとしていて、かっこよくて。


「……夢を、教えてくれたのよ」

「夢? 奈冷の?」

「ええそうよ。奈冷は、医者になるのが夢だった。雪杜家の暗黙の了解なんかに縛られることなく、純粋に彼は医者になりたいと教えてくれたのよ」

「そういえば奈冷の父さん、医者だって言ってたな」


そう。わたしが好きなのは奈冷。
なのにどうしてだろう。
あまりこの人に奈冷の話をしたがらない自分がいる。

それどころか、何故か胸がチクチクと痛む。病気ではないはず。
今日は本当にいろんな感情がわき上がってくるから、なんだか心が忙しいわ。


「環くん、いる!?」

「!?」


男の人の少し高い、切羽詰まったような声が外から聞こえて、頭から水をかけられたようにハッとした。