雪のとなりに、春。

その言葉がかけられるのと同時に、バッと距離をとる。

背中に感じていた熱も一瞬で消えてしまって、少し肌寒く感じた。
……ブレザーを脱いだせいよ。

色相環はそんなわたしを見てくすりと笑う。

そして、教科書よりもひとまわりくらい大きい、正方形の真っ白なキャンバスを用意した。

そのキャンバスの前に、イスを二つ運んで、そのうちの左側に座った。
右側の空いている方のイスをポンポンと叩いて、またわたしに笑いかける。

「座れ」ということなのだろう。
わたしは大人しく隣に腰掛けた。

……肩が触れそうな距離に、また心拍が速くなる。


「ほら、筆持って」

「わ、わたし、絵なんて描けないわよ?」


この人の家までついてきて、エプロンまで身につけて。
キャンバスの前に腰掛けてやっと出た言葉がそれだ。
なんて情けないんだろう。

いたずらがきすらしたことがない。

どれだけ勉強ができていても、中学の頃に唯一評価が低かったのは美術だ。
医者になるにあたり、絵が描けなくても問題はない。

そう思っていたからこそ、特に気にしてこなかった。

今、わたしの隣にいるこの人は芸術家だ。

わたしの絵なんか見て、幻滅しないだろうか。
この人がくれる期待に応えられなくて、見損なわれたりしないだろうか。


……いや、何を考えてるんだろう。

別にこの人に幻滅されようが見損なわれようが、わたしには関係ないじゃないか。


「奏雨、見て」

「……?」