雪のとなりに、春。

「奏雨の好きな色選んでよ。それで一緒に描こう」

「ちょ、え……急に何言って」

「ほらほらこういうのは直感だぜ!! 選べ、奏雨!!」


勢いのまま、目の前にあった適当な絵の具をいくつか手にとった。
何色だったかなんて見てるわけない。

なによこれ。いくらなんでも強引すぎるわよ。

だいたい何? 知ったようなこと言わないでくれる?
わたしのことなんて何もしらないくせに。
現にこんなに迷惑してるのにだって気付いてないじゃない。

ただ。

喜んでそれらの絵の具を購入している彼の表情は嫌いじゃないなと、思った。

せっかくここまで歩いてきたのに、半ば強引に色相環の家に行くことになったのは納得いかないけれど。
彼のその強引さに流されてしまったわたしが悪いんだ。

けれど、ドキドキした。

初めての感覚。

放課後に勉強をして遅くに帰るなんてことはよくあった。
けど、勉強以外のことで帰りが遅くなるなんてことはしたことも、考えたこともなかった。
こんなこと、お母さんに知られたらなんと言われるだろう。

けれど子供の時に、何度もお母さんの目を盗んで奈冷と遊んでいた時のことを思い出した。
あの時とは違う、ドキドキ。


なんだろう。

なんだろう。


彼に引かれている自分の手を見る。
小さいわたしの手を包み込む、血色のいい大きな手。


胸が高鳴った。

彼の大きな背中が、その周りが、キラキラしている。
わたしの知らない世界に連れて行ってくれるような、そんな気がした。