夕焼けの音

胸元から香る、洸さんの匂い。
あの頃と変わらなくて、少し懐かしい。

「わ、私、結婚してるの――」

洸さんは一旦私を離し、私の顔をまじまじと見、そしてまた抱きしめた。
「じゃあ、不倫しちゃわない?」

どきん! とした。

昔のことがフラッシュバッグしたのと、それと、洸さんのシングルという軽くて淋しい立場を感じ取った。

全身に力が入らない。

私――。

「ママー。おなかすいた。かえろ」

はっと我に返ると、瑛太が私の服の裾を掴んでいた。

慌てて洸さんから身を離したけれど、そのままぐい、と手首を掴まれた。
右側に瑛太。
左側に洸さん。

私は両天秤にかけられていた。