夕焼けの音

それは言わなかった。

瑛太は、洸さんとの間にできた子じゃない。

私は洸さんと別れてから、精神的ショックか、神さまの仕業か、流産をした。

泣いた。たくさん泣いた。色んな憶いが涙となってとめどなく溢れた。

失意のまま大学に復帰し、今までのように結婚式での演奏のバイトをこなした。
そんな時、今の旦那に巡り合った。
年上の、ホルン吹き。平凡だけど、やさしいサラリーマン。
バイトでまかなってきた楽隊。ある日人手が足りなくて市民楽団から賛助できてくれたそのひとと、私はあたらしく恋に落ちた。

――今思えば、洸さんとの間に恋心があったのかと問われれば、怪しいけれど。
単なる「不倫」を楽しんでいただけだったかのようにも思う。洸さんも、私も。

そう、楽しかった――。

彼の楽器を持つ手には、もうリングはない。

それを少し哀しく感じてしまう私は、何なのか。

「な、俺らやり直さない?」
洸さんはホルンを足許のケースの上に置き、手を伸ばしてきた。
「え?」

そして、そのまま抱きしめられていた。