夕焼けの音

「瑛太―」

私の呼びかけに、瑛太は私を振り返り、「ママ―」と云ってはまたホルンに目を遣る。

私は、ゆっくりと歩み寄って行った。


そうじゃないかと思ってた。
私はここに来たことがある。

毎日の買い物の路としてではない。
連れられて、ここに来たことがある。

そのホルン吹きの男のひと――洸さんに連れられて。

「お久しぶりです」
私から彼に声をかけた。
すると彼は音出しを止めて、私をゆっくりと見た。

「……あ」
彼は一瞬、口をぽかんとさせ、そしてにっこりと笑った。

変わってない。彼の笑顔。
笑うと目尻が下がって、いわゆるイケメンの顔つきが、小動物のようになる。

「じゃあ、このガキは、俺のガキか」
私は微笑み返す。
「そうかー。よし、チビ。俺ホルン吹いてる時、ここに腕入れてみなよ」