夕焼けの音

それとも、つわりの名残りなのか。

げーげー、と嘔吐が止まらない。
きっと、これはあかちゃんの仕業ね。

僕はここにいるよ、って。私は生まれるのを楽しみにしてるのよ、って。
そういうサインのように思われた。

私のお腹で囲まれた、あかちゃん。
この子は、他の子を好きになった元カレとか、家庭に戻って行った洸さんとかとは違う。

あかちゃんは、絶対私を裏切らない。
ママを嫌いな子どもなんて、まずいないはずだ。
そう思うと、不思議と吐き気は治まった。

……解った。
解ったよ、あかちゃん。
私はお腹をさする。

私が守ってあげるからね。私だけが、守ってあげるからね。
子どもを無事に育てあげることが、洸さんへの最大の復讐だ。

私は包丁を手に取った。
この搾り汁を飲めば、すっきりする。こころも身体も。

だん、だん、だんと、私はひとりキッチンで、レモンを刻み始めた。