夕焼けの音

「……ケダモノ」
「そうかもね。でも、澄花ちゃんのこと好きだったよ」

今はそんな言葉が陳腐に聞こえる。

「行くね。じゃあね」

扉は一方的に閉ざされた。

彼のいなくなった部屋で、私はひとりだった。

……いや、ひとりじゃない。この子がいる。

だけど、この先、私、どうする。

あかちゃんはまだ、人工妊娠中絶できる時期だ。
そんな考えがあたまをよぎった。

かちかちかち、と時計の秒針の音が、部屋に冷たく響く。
こうしている間にも、あかちゃんはどんどん大きくなっていく。
堕ろそう……か。
そんな言葉が浮かんだ。

「……うっ」
途端に、急な吐き気に襲われた。
慌ててリビングを出て、キッチンのシンクにもよおす。
この気持ち悪さは、精神的ショックからくるものなのか。