夕焼けの音

私の顔を見るなり、ふわっと笑う彼。
つられて私も笑顔になる。

もうここには来ないんじゃないか、と心配しつつあった。

私の親への挨拶を少し渋っているようだった彼に、疑心も少しあった。

でもこうして来てくれた。

「ご飯作ってあるの。ゆっくりしてって」
「ああ……」

スーツ姿の彼は、ネクタイを少し緩めると、お邪魔します、と云って靴を脱いだ。

お邪魔します、なんて今更他人行儀な……と、私は苦笑してしまう。
これからは“ただいま”になるのだから。今はこのフレーズを楽しもう。

洸さんは部屋のテーブルに着くと、テレビをつけた。
公共放送のニュース。
株価が……日経平均指数が……そんなものをじっと見つめている。
さすが、銀行マン。そういうところ、きっとよく解ってるのね。
やっぱり私は彼を尊敬する。

「お茶飲む? お湯沸かしてるから」

彼が部屋に入ると同時に、小鍋に水を張って、火にかけていた。
「ああ」