「…らさん、…田村(たむら)さん!」

ふいに肩を叩かれ、茉白(ましろ)は驚いた。

同僚は怪訝そうな顔をしている。

「これ、今日中にお願いね」

「はい」

茉白は頷き、同僚から書類を受けとる。

「でさ~、田村さんに用事があって肩を叩いたらすごくびっくりされて、こっちがびっくりするっつーの」

遠くから、茉白の事を話す声が聞こえる。

「ああ、あんた、左側に立ったでしょ」

「え、そうだけど、何?」

「田村さんね、左耳、聴こえないから、左側に立たない方がいいわよ」

「え~、美人なのに気の毒ね」

…もう慣れっこだ。

茉白は肩をすくめた。