「出来るよ。……いつか、僕も雨もここから出ようと思える日が来るといいね」


「そうだね」



そこで会話が途切れて間に沈黙が流れる。それが流れるのも無理ないだろう。だって、出会ってまだ一日も経っていないから。


気まずい沈黙に耐えていると、「あっ」何かを思い出したのか虹空くんが急に声を上げる。



「雨。言い忘れてた」


「何を?」


「この世界の噂」



人差し指を口に当てる虹空くん。



「これは噂なんだけど……この世界から出るとここで過ごした記憶が消えてしまうらしいんだ」


「消える?」


「そう。ここの記憶は一切残らない。出会った人も出来事もこの世界自体も。まぁ、噂なんだけどね」



虹空くんはその後に「信憑性は噂の中でも一番高いよ」と付け足した。



「他にもあるの?」


「うん。次に高いやつは黒い服を来た男の人の正体が神様だということ」



何故か、これには納得しそうになった。


一番信憑性の高い”夢の世界から出ると記憶を失う”、これは出た人にしか分からない。


でも、”黒い服を来た男の人の正体は神様である”これは実際見たことあるし、本当に全身真っ黒で怪しく、不気味であったこと、そして驚くような豹変ぶり。それを今でもはっきりと覚えているから。



「それは、確かに……そんな気がする」


「だよね」



その時、何かのメロディーが部屋の外で鳴りだした。



「あぁ、もうこんな時間」



虹空くんが上を見上げる。私もつられて目線を上に移す。


視線の先には時計があり、時刻は八時を示している。



「今日は疲れたでしょ」