「……欲しい物」
「そう!君の欲しい物」
もしも、この世界にお姉ちゃんがいなかったら。
私はきっと誰にも比べられなかった。こんなに傷つかずに済んだ。
両親も親戚もクラスメイトも、”叶山晴の妹”じゃなくて、”私自身”を見てくれた。
男の人が帽子をクイッと上げ私のほうを見る。でも相変わらず顔を認識することは出来ない。
「君の願いは決まったかな?」
ここは夢だから。叶うなんてことは絶対にない願いだから。
その事実にすがって、拳(こぶし)をぎゅっと握りしめ、震える声を振り絞った。
「……この世界じゃない世界。私が欲しいものはこの世界じゃない世界」
お姉ちゃんの居ない世界に私は行きたい。
長年、溜まっていた感情が初めて言葉になった瞬間だった。
男の人が鼻で笑う。
「今日は願いを聞かせてくれてありがとう。君の願いは絶対、叶うよ」
「えっ……」
あっという間に霧が辺りを包み込んだ。
そして、男の人の姿はあとかたなく消えていった。



