「あっ、いえ、大丈夫です。マンションまで近いですし、傘もありますから」


「少し話したいんだ。大切なことだから」


真剣な表情。


潤んだ瞳で真っ直ぐ私を見つめる九条さん。


ズルいよ、こんな切なげで憂いを帯びた顔をされたら断れなくなる。


「さあ、行こう」


確かにここで話してて誰かに見られるのも嫌だし、私は九条さんに言われるがままに車の助手席に座った。


シートに座るまで、雨に濡れないように傘をさしてガードしてくれるところ、紳士的で優しい。


運転席に乗り込んだ九条さんのスーツのジャケットには雨で濡れた跡が……


さらに足元に目をやると、上着よりもスラックスの裾の方がかなり濡れていた。


まさか、車から出て雨の中をずっと待っていてくれたの?


「突然悪かったな」


私は、首を横に振った。


「あ、あの……ま、真斗君はずいぶん九条さんに懐いてますね。真斗君、すごく嬉しそうにしてましたから」


いきなり何を言ってるんだろ?


隣に九条さんがいるせいで動揺が治まらない。