傘を広げながら空を見上げると、灰色の雲が漂い、冷たい雨粒を落としていた。


梅雨はとっくに過ぎ、だんだん日差しもキツくなってきたけど、今日はこの雨のおかげで比較的過ごしやすい。


私は薄手のカーディガンを羽織り、保育園を出て歩きだした。


今日のシフトはお昼まで、雪都のお迎えまではまだ時間がある。


1度マンションに戻って用事を済ませなきゃ。


「彩葉」


その瞬間、雨の音が全部消えたみたいに、私の耳にあの美しい声が流れ込んできた。


「……えっ?」


その人は、少し離れた場所に車を止め、その前で傘をさして立っていた。


それは、まさしくこの前保育園に現れた男性だった。


周りの何気ない景色さえも全て自分の背景として取り込み、まるでその場所だけが海外のオシャレな映画のワンシーンのように見えた。


日常から遠くかけ離れたその光景。


私の中に、息ができないくらいの感情が一気に湧き上がった。


その人が1歩ずつこちらに近づいてくる間、私の心臓はどんどん高鳴り、溢れそうになる涙を必死に堪えた。